どこまで行くの 僕達今夜/このままずっと ここに居るのか/はちきれそうだ とび出しそうだ/生きているのが すばらしすぎる/
キスして欲しい キスして欲しい キスして欲しい キスして欲しい/
(THE BLUE HEARTS/
キスして欲しい
 きらきらと自分から光る星のような瞳だった、光と力と熱をもって内から輝く恒星。俺が言うのもおかしいがまるで少年のような目。俺よりうんと早く生まれてうんと色んな経験をつみうんと偉そうなこの男の、目が、まるできらめく星のよう。あまりにロマンティック。笑えるを通り越して泣ける。泣けるよ。
 お前が死んだと思った、と、こいつは言った。もう駄目だと思った。あっけなく死んじまった俺の天使みたいに、おまえも、粉々に砕け散って千切れてばらばらになって死んじまったんだ、って、思った。そう言うのだった。
「死ぬかよ。俺が。死ぬわけねーじゃねえかよ、俺をなめてんのか」
「ああ、そうだな、そうだよな。なあ……」
 きらきらきらきら。あまりに光るこいつの目。何でこんなに輝いているのか、何のことはねえ、こいつは泣いているのだった。まぶたのふちに、目じりに、目頭にたまった涙が、夜の明かりを反射して、煌いている。
 俺はくちびるをよせて、それを掬い取った。それなのにこいつはいっそう涙を溢れさせ、ぽろぽろうっとうしいくらいにそれをこぼす。
 ためいきひとつついて、俺はルキーノに口付けた。以前過ごした甘い日々を思い出しながら、あの苦い夜を、胸が苦しいような昼下がりを、穏やかな夕暮れを思いながら。
「なんで」
 ルキーノの声はふるえている。
「なんでおまえは死んじまうんだ」
 目がきらきらきらきら輝いて、まるで自分から光る星のよう。
 俺は、死なねえって、と笑い飛ばそうとした。代わりに口から飛び出したのは咳と血反吐だったが。わが身の不自由さに舌打ちをする。ああこんな時に限って、こんな風に汚れたときに限って!キスして欲しい、なんだか無性に、苦しいくらいに。
 そんなことはとても言えず、俺はただ、ルキーノの目を見ている。夜空よりこっちのほうがよっぽどいい、デイバンの汚れた空なんかより、こっちのほうが、よほどうつくしく、煌いて、俺の心を奪う。
 ルキーノが俺の血を舐めた。舐めて、そのまま恭しくキスをした。俺は俺の気持ちに反して顔を背けようとした、なぜだか申し訳ないような、思いやりのような気遣いのような変な遠慮をしてしまった。ルキーノは今までで一番恐ろしい、怒った顔をして、目に涙をたたえながらもう一度俺にキスをした。
「ばかやろう、」
 合間に俺を叱りながら。
 俺は段々すべてが心地よくなって、飛散する命に心を馳せた。なんてすばらしいフィナーレ。俺にはもったいない終幕だ。俺はルキーノに言った。多分こいつに向かって、初めて素直な言葉を吐いた。
「ルキーノ、もっと、キスして欲しい」
 きらきらと、星は輝くばかり。俺はそればっかり見ていた。見えなくなるまでずっと見ていた。

もう動けない 朝が来ても/僕はあなたの そばに居るから/雨が降っても 風が吹いても/僕はあなたを 守ってあげる
(THE BLUE HEARTS/キスして欲しい)