脳天までゆさぶられるような感覚、触れられるところすべて、熱くてとけてしまう。こんなはずじゃなかった、最初は痛くて仕方なかった。いやだ、やめろ、と、なんども言った。声が枯れるほど言った。ルキーノは笑うだけでけしてやめてくれなかった。やめてくれないどころかどんどん強くした。俺のやめろという悪態が、うう、うう、と意味のない啜り泣きに変わるころの、こいつの顔ったらなかった。まあ、心底うれしそうに、目を細めて俺の顔を見る。喘ぎすぎて息が上がっている俺を、悪戯っぽい顔つきで見下ろすのだった。こわい。この男はこわい男だ。俺はぞっとする。ぞっとするが、それ以上に、感服していた。もうお手上げだ。どうしようもない。なすすべがない。こんなに気持ちがいいのだから、もうどうだっていい。いや、どうでもいいことはない。もっとしてほしい。もっともっと続けて欲しい。もっと強くしてほしい。いっそ俺のからだをえぐるほど、心もいっしょにえぐるほど、たくさん、たくさん触ってほしい。

「あー、もっと、もっとしてくれよ……」
「……まあ、俺から言うことは特にないがな、イヴァン」
「ああ……?」
「おまえ、マッサージでよくもまあここまで楽しめるな?」
「ケッ。たまにゃあこういう意趣返しがあってもいいだろうが」
「誰に対する、だよ……」
 ルキーノは俺の足の裏のツボをぐいぐい押しながら、呆れたように息を吐いた。俺は、いてえ、と叫び天井を仰ぐ。ルキーノの指がうごくたび、痛くて仕方ない、だがそれが気持ちいい。

「さてと。じゃあ次は俺の番だぜ。まあ非力なイヴァンちゃんのマッサージなんて、あんまり期待してないけどな」
「んだとおお!?おもしれえ、痛くてひいひい喘いでしまいに気絶してもしらねえかんな!」
「おー、やってみな」
 ルキーノはくつくつと可笑しそうに笑った。ちくしょう!俺は腹が立って、うつぶせに寝そべるルキーノの上にのしかかった、
と、思ったら、急にルキーノが体をひねり、仰向けになった、俺はルキーノの腹に馬乗りになりながら目を白黒させる。ルキーノは腕を伸ばして俺の頭を抱え込み、俺の耳元に唇を寄せて、
「積極的じゃないか、イヴァン?」
と小さな掠れた声で囁いた。思わず肌がぞくりと粟立つ。俺が体を引こうとすると、ルキーノは噛み付くように俺にキスをした。しまった、と、思ったがもう遅い。こうなるともう俺にはどうしようもない。腰の辺りがじくじくと疼き、体からは力が抜ける。思わずルキーノの胸に突っ伏すと、ルキーノは膝で俺の脚を割ってぐりぐりと動かした。
 俺はみっともない嬌声を喉の奥でどうにか抑えて、泣きたい気持ちでルキーノを見下ろす。ルキーノは笑っていた。あのキング・スマイルで。
「どうした?俺を喘がせて、気絶させてくれるんじゃないのか?」
 俺は確信した、やっぱりこの男はこわい男だ。快楽の名の下に、俺はもう、王に従うしかないのだった。そしてそれが嫌ではないのだから、まったく俺もどうかしている。


おしまい

2010年5月6日 保田のら